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ぜんぶ嘘なので気にしないでください。

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「魂」
「なに?」
 ストアは持っていた本を持ち上げて、キスの顔を見る。機嫌がいいのか、今日は青いドーランが顔中にまぶされている。
「魂はどこへゆくと思う」
「僕は忙しいので、そこのクマに話しかけていただけますか?」
 キスはクマを持ち上げて、同じ質問を繰り返した。あまりに哀れだったが、一度突き放した手前、ストアはなにも言わなかった。キスはやがて、杖でふわりと彼(クマ)を押し、空中に揺わせた。
「幽霊を君は信じるかね」
「信じません」
「魂の持ち回りは?」
「信じませんよ。魂からなにもかも」



「どうして突然姿を消したんです」
「勘違いかな。『どうして自分の前から勝手至極に消えうせたのか』と、君は僕をどうやら詰問したいようだ」
「質問に答えないのはあなたの悪い部分だとずっと思っていました」
「そうだな、悪かった。純然に悪かった。なぜ君の前から姿を消したのか、それはね、君に答えられるはずのないことを問い続ける自分の性分というものが嫌になったのさ」
「嫌に」
「そう。君がじゃない、君の前にいるときの僕のことを嫌いになったのだ。この違いは大変に大きく、そして君に最後に差し出せるヒントだ」
「あなたはときたま――いや、常に、僕に謎掛けをしている。いったいなにが楽しいんです。あなたはいったい僕に何を解いて欲しいんだ」
「問題すら明らかにならないのに、君はときに核心に至るようなことを言うね、ストア。だから好きだ。君のことは好きだ。ただ君の前でこうしてあいまいな態度を取るだけとって結局君になにももたらさない、そんな自分のほうこそ嫌いになったのだ。嫌気が差したんだよ、ストア」



「ねえ君、知っていたかね。魔術士というのは実は、作家なんだ」
「いえ、あなたは間違っている。魔術士は魔術士です」
「なんと面白みのない! 少しぐらい付き合ってくれないものかな」
「遊びたいならほかの人とにしてください」



「ねえ、まだ言わないの」
「なにをだ」
 分かっているくせに、この人はどうしてこんなことを言うのだろう、と辟易する。
「師匠に言わないの」
「ストアに? 言わないさ! 何もね。何ひとつあの子は知らなくていいことだ」
 師匠はどう見ても大人の男性なのに、彼をあの子なんて呼ぶ叔父のことが、僕はいっそ恐ろしかった。



「僕はあの人のことを心から信じてるよ」
 僕も君にとってそういう人になれるよう努力するつもりだ、と言おうとしたがストアは、結局なにひとつ言えなかった。圧迫させてはならない。他人を威圧するために、僕は生きているんじゃない。そういうふうに思えることが僕の矜持だ。恵まれて生まれた僕の、最後の砦でこそある。
「僕はあの人のことを信じている……」
 それはまるで自らを呪っているようなつぶやきでもあったが、それでかまわないとさえ思った。
 呪われて構わない。
 これは信仰のひとつだ。


三幕および四幕の断片より。