キス・ディオールと記憶の断片

「魂」「なに?」 ストアは持っていた本を持ち上げて、キスの顔を見る。機嫌がいいのか、今日は青いドーランが顔中にまぶされている。「魂はどこへゆくと思う」「僕は忙しいので、そこのクマに話しかけていただけますか?」 キスはクマを持ち上げて、同じ質…

なめらかな曲線を描く書棚は、よくよく油のしみこんだ銘木イルゼナ材をまぶしい夕陽に光沢させていた。ところどころに掛けられている脚立は、細影をあしたか鶴のように伸ばしている。奥には巨大な窓でもあるのか、黄色の光が飛び込んでいた。ストアは目を細…

四幕第一章 - 1 -

一切の仔細を捨て置いて、分析士・キス・ディオールその人が音信を不通とし行方を完全に暗ましてから、既に三ヶ月が経とうとしていた。「本当にあの人は勝手だ」 思いがけず宙に放られたその言葉は、自分で思うよりも大きくなって響く。このままあの人にも聞…

「だれとでもどっぷり仲良くなる必要なんてありません」「君にはどっぷり愛する相手がもういるから、ということかな?」「いいえ。僕だけの話ではなくて、誰にもいつでもどこででも、誰とでも仲良くなる必要なんてないのです。そんなふうに思う」「そうか、…