苦手なことがいくつかあって、たとえば「それって私のことでしょうか」と聞くこと。

 

発言の内容、前後の雰囲気、なんとなく私のことかもしれない、でもあんな暗喩的な言いかたで指摘したりする人かしら。どうしても言いづらくて、気づいて欲しくてああいうふうにしているのかも。ううん難しい。でも、私は「それって私のことでしょうか」と聞くことが苦手なので、聞かない。

でも、対面ではどうしてかやりやすいような気がする。何度かやったことあるよ。「すみません、それって私のことでしょうか?」って。なんなら微笑みながらでも言えた。

 

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機嫌のわるい人が、わたしが話しかけるときにだけ、機嫌が悪いことは明らかでありながらも、なんとなくおさえてわたしにつとめて優しくしようとする。わたしはそれに気づかないふりをする。どうしてすこしイラついてらっしゃるんですか、なんて無粋なことは聞かない。

 

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なぜわたしがこれほど祖母のことが気にかかり、忘れがたく思うのか。もちろん祖母を愛しているから、というのがその問題への答えのひとつではあるのだろうけれども、もうひとつ「わたしが祖母を愛していることを、祖母がきっと知らないから」なのではないかということにも思い至った。

先日、友人らと二泊三日で旅行に行った。泊まった宿の女将さんは、祖母にあまりにも似ていた。みかけというよりも、笑い方がまったく同じで、深夜に二時間遅刻してチェックインしたその宿のふるびたカウンターのまえで、わたしは胸を締め付けられるような苦しさを感じた。女将さんはわたしを見て、お疲れになったでしょうと笑い、ほんの少し曲がった腰で階段に向かった。わたしはなにも言わずそのあとをついていった。

ふるい茶色の階段、さすられて滑らかになった木製の手すり、ぷんと香るにおい、すべてがどことなく祖母とつながっているような気がして、わたしは、古いわりには割高なこの宿に決めてよかったと思った。料理の味付けまで似ていた。