啓太くんがサイコロをぐしゃりと掴んだ。
 じゃらじゃらと手のひらの中でしばらく転がした後、いっせいに宙へ放り出す。

 ――賽は投げられた。

 五つほどのサイコロが、好き好きに転がりながら、それぞれのタイミングでカタンと音を立てて停止する。面が揃ったとき、背中に悪寒が走った。

「これって、手品?」

「――ううん、俺が振るとこうなるんだ」

 表を向いているのは、全て六の面だった。
 啓太くんはこの奇跡をなんでもないことのように、手馴れた様子でサイコロを回収していく。

「っていうか、好きなように出来るよ。たとえば……栄子さん、誕生日十二月だったよね。何日だっけ?」

「十三日。金曜日だったらしいわ」

「六以下の数字だけだね。ちょうど良かった!」

 四つだけサイコロを左手に握り、またじゃらりと投げる。
 何の変哲もないはずの小さな立方体が、一、二、一、三……と止まった。

「凄い……これ、どうして」

「分かんない。五歳ぐらいの頃かな、やってみたら出来たんだ。あんまり大きすぎるものだと無理だから、商店街でやるような、大きなサイコロとかは駄目。あれがコントロール出来たら、一等の洗剤、毎回もらえるのになあ」

 啓太くんはくしゃりと笑って、サイコロを再び回収していく。

「あの、浮かしたりはできないの? 例えば落ちているコインを触らずに持ち上げたりとか」

「ね。ほんとはそんなことがしたいんだけど、そういう力と、俺の力って種類が違うらしいんだ。同じ超能力――PKではあるんだけど、俺が出来るのはPK-MT。止まっているものを動かすには、PK-STって呼ばれる力が必要なんだって」

「PK……ああ、聞いたことあるかも。サイキックとか、ユンゲラーとか……」

「あはは、そうらしいね。俺はスプーンも曲げられないけど……それに、霊も見えないし」

「霊を視る力も、また別なの?」

「うん、あれは、超能力じゃなくて霊能力っていうくくりで、そもそも違うものなんじゃないか、って話が有力かな。たしかに理にはPKはないし、俺には霊能力がない。でも、両方出来る人たちもいるんだよね。あと、超能力者の子供は、小さいころ霊を視ることが多いらしいよ。だから、何かしらの相関は、あるんだと思う」

「でも……例えば両方持ってるって主張する人のことって、どの程度信じられるか分からないじゃない?」

「うん、そうだね。確かに超能力や霊能力って聞くと、ほんと胡散臭いしね」

 啓太くんはサイコロをまたいじりだしながら笑う。
 三つのサイコロを、すべて一、すべてニ、すべて三と、何度も揃えなおしていく。本当に奇跡だ。

「その……宮部くんと啓太くんのことは勿論信じてるんだけど」

「あ、別に気にしたりしないよ。まあ、普段はやっぱり、白い目で見られること多いし、あんまり言わないけどね」

「何か言われたことがあるの?」

「ううん、俺はあんまり。サイコロ揃えられるぐらいだし、周りにばれたところで、すげー! って言われて何度もやらされるぐらいで。でも、理は辛いこともあったんじゃないかなぁ。あいつは生きているものも死んでいるものも同じように見えるから、死生観、っていうのかな。そういうのも小さいころから考え出しててさ。そういう子供って、大人から見たらちょっと不気味に見えるんでしょ?」

 確かに、そうかもしれない。理くんはそもそも頭がよさそうだし、きっと賢い子供だったんだろうな、と思った。その賢さが、両親や周囲の人々を不安にさせることだってあったろう。
 まあ、栄子からすれば、今もまだ彼らは子供のようなものだが。

 

 

冷蛇第四話